921猪谷千香著『つながる図書館――コミュニティの核をめざす試み――』

書誌情報:ちくま新書(1051),238頁,本体価格780円,2014年1月10日発行

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本書でも触れられている菅谷明子著『未来をつくる図書館――ニューヨークからの報告――』(岩波新書,2003年9月,[isbn:9784004308379])と先行著『メディア・リテラシー――世界の現場から――』(同上,2000年8月,[isbn:9784004306801])――「メディアと私たちの豊かな関係をめざして――テレビ電話で著者にインタビューしたことがある。『メディア・リテラシー』の著者 菅谷明子さんに聞く――」(『コンピュータ&エデュケー ション』第9号, 柏書房,2000年12月1日,3〜12頁)参照――には変わるアメリカの図書館とメディアの動向に目を開かされた。
本書は日本各地の図書館が地域の人と人とをつなぐ拠点になっていることを丹念な取材で紹介している。菅谷本のニューヨーク公共図書館のビジネス支援は「課題解決型図書館」としてしっかり根づいている。
武蔵野プレイス,千代田図書館小布施町まちとしょテラソ――アプリ「小布施ぶらり」は評者の iPadiPhone に入っている――,鳥取県立図書館雄武町立図書館,神奈川県立図書館,武雄市図書館,伊万里市民図書館,公共図書館青空文庫国立国会図書館飯能市立図書館,船橋市の「図書館」),島根県海土町中央図書館の事例から図書館の新しい試みと課題(県立と市立,指定管理者制度など)とを整理している。本書の「つながり」とは,図書館同士の「つながり」ではない。「人と本だけではなく,人と人をつなぎ,コミュニティの中で新たな役割を担っている図書館の姿」(16ページ)を意味している。
「市民との協同で作られた図書館,無料貸本屋批判を脱却し解決型図書館を目指す図書館,指定管理者制度を導入しかつてないサービスを展開する図書館,インターネットやソーシャルメディアの普及によるデジタル化の波に対応する図書館。そして今,公立図書館でも私立図書館でもない「新しい公共図書館」という波」(205ページ)がバランス良く報告されている。
無料で誰でも使える図書館にはわれわれの人生や地域をより豊かにしてくれる可能性があることを教えてくれる。