1195田辺武夫著『卓球アンソロジー』

書誌情報:近代文藝社,445頁,本体価格1,500円,2016年8月20日発行

卓球アンソロジー

卓球アンソロジー

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本書は「ボールを打つ身体運動を通して経験する卓球」を実践されてきた著者による「言語などにより表現される卓球」を集成したものだ。著者は大学卓球部キャプテン,高校の指導者,ある市の卓球協会の役員であり根っからの卓球人である。その卓球人が卓球を話題にした作品を繙いている。
山田耕筰が日本では最初期の卓球人ではないかというエピソード(岡山・三友寺に「ピンポン伝来の地」の碑があるという)や漱石の日記から「(1901年:引用者注)三月二十八日 木 夜ロバート嬢トピンポンノ遊戯ヲナス」を見つけ出し「名のわかる人としては日本人最初のピンポンプレイヤー」と語らせたりと卓球の話題は豊富だ。「歴史的事実の追求より,卓球がどのように表現されているか」(385ページ)を調べ,これだけ多くの文学作品や漫画の卓球やプレーシーンに言及したのは本書が初めてではなかろうか。
楽しいだけではない。小野誠治が79年世界卓球平壌大会で優勝した時,北朝鮮の「招待所」のテレビ生中継を観戦させられたという拉致被害者の話は胸を打つ(蓮池薫著『拉致と決断』(新潮文庫[isbn:9784101362229],参照)。
浦西和彦編著『温泉文学事典』(和泉書院,2016年11月,[isbn: 9784757608085])が出たことを知った(浦西和彦「日本文学に漂う湯の香り――初の「温泉文学事典」,漱石からミステリーまで473作家――」日経新聞,2016年12月2日)。『卓球アンソロジー』に詳細な索引があれば十分『卓球文学事典』になっただろう。