684絹川正吉・小笠原正明編『特色GPのすべて――大学教育改革の起動――』

書誌情報:大学基準協会(JUAA選書第14巻),459頁,本体価格4,095円,2011年3月31日発行

特色GPのすべて (JUAA選書)

特色GPのすべて (JUAA選書)

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遠山敦子文科大臣当時「トップ30」構想が打ち出され,世界最高水準の研究教育拠点づくりの新事業が始まった。「トップ30」構想は,研究面では大学院博士課程を対象とした「21世紀COE (Center Of Excellence)」として2002年から,教育面では学部教育を対象とした「特色ある大学教育支援プログラム(特色GP [Good Practice])」として2003年から,それぞれ形を変えて実施されることになった。
特色GPは「個性輝く大学」を旗印に各大学で取り組んでいるすぐれた教育実践を支援する目的をもったもので,文科省がその選定を大学基準協会に委託することで大学間の相互評価によることを特徴としていた。金は出すが,選定には口を挟まないというこれはこれで評価できるシステムで5年間にわたって実施された。本書は選定にかかわった大学基準協会として特色GPを網羅することで大学教育改革を特徴づけようとした資料集である。
特色GPの意味,採択事例を通して見えてきた大学教育改革の流れ,大学・修士課程・短大別の事例集と全採択一覧を含んでいる。本エントリーでも度々取り上げてはきたが,特色GP採択を受けてその後各大学がどのように取組を継承し,大学教育の改善に役立てているかを検証する恰好の資料集となっている。明らかに特色GPねらいの取組もあった。それ以上に多くの大学で教育改革の核として事業の継続性を見ることができるのも事実だ。愛媛大学の2例――「「お接待」の心に学ぶキャンパス・ボランティア」(2003年度)と「FD/SD/TAD三位一体型能力開発」(2005年度)――は大学の特色を出すうえで大きな役割を果たしたし,現在も進行中のプロジェクトに育っている。
日本の高等教育分野における「競争的資金配分プログラム」は特色GP以降「誰かが誰かを評価するのではなく,相互が評価しあうことによって新しい大学教育を作り出すという,相互主義の原則」(458ページ)を薄めてきたように思う――「特色GPや現代GPなど初期のGPは,大学の自主性と政府の政策意図との絶妙なバランス」があったが,「プログラムにより強い政策意図が反映されるようにな」った(51ページ)――。研究と同様教育にも地道な日々の努力とそれを支える人的・物的支援が欠かせないということを認識させたことでは特色GPが果たした意義ははかりしれない。教育改革を考える資料として活用したい一書である。