545高田昌幸・清水真編『日本の現場――地方紙で読む――』

書誌情報:旬報社,622頁,本体価格2,500円,2010年9月1日発行

日本の現場    <地方紙で読む>

日本の現場 <地方紙で読む>

  • 発売日: 2010/08/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

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日本の新聞は,全国紙(読売,朝日,毎日,日本経済,産経),数県にわたるブロック紙(北海道,西日本,中日,東京[東京,北陸中日]),各都道府県全域の県紙(40紙以上),さらに小さなエリアをカバーする地域紙(郷土紙)がある。一県一紙は戦後の新聞統制に起源をもつ。福島県沖縄県には複数の県紙がある。全国紙が各都道府県でトップのシェアをもつのは9つの都府県だけである。日本全体でみると全国紙5紙で新聞市場の50%以上を占め,県レベルでは県紙がトップという「二重の寡占」状態にある(清水)。全国紙は「東京紙」・「都市紙」ともいえることになる。
全国紙は県単位だけでなくブロック(中国地区とか中四国地区とか)で地方版を構成することもあるが,県紙は他県では読まれない。県紙発のニュースは県境という遮蔽物をもち,よほどのことがないと全国版にはならない。他県発ニュースは国際ニュースや全国紙あるいは共同通信配信記事から得られ,自県発ニュースは全国紙や配信記事を通じて伝えられていく。
青島刑事は「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場でおきてるんだ」と叫んだように,全国に影響力を持っているテレビ・キー局や全国紙が報じるニュースは,地域という「現場」で起きている。
田舎で仕事がなければ都会に出ればいい,市町村を減らし行政サービスを効率化する。地域の「現場」を知らないこうした意見を地方から検証するところにこそ地方紙が向かって欲しい。地方紙の存在の意味は「個別具体的な事象を徹底的に足で取材すること」(清水)にある。「日本の現場」を再現し,全国へ届ける「回路」づくりは,一度かぎりの試みとしては惜しい。それでも,2008年末から2009年11月までの地方紙30紙の連載や記事を抽出した断片は,ローカルな場所に出現するグローバルな「現実」を浮き彫りにしている。
このブログには地元紙愛媛新聞からの話題をエントリーにしたものを多く含んでいる(下記エントリー参照)。このうち「東アジア最古の縄文期埋葬犬の骨不明と「失敗史」」,「労研饅頭 日中のきずな」,そして「大学犬はなちゃんの日常(その101)」が評者による勝手な愛媛新聞ベスト・スリーだ。