606大黒岳彦著『「情報社会」とは何か?――〈メディア〉論への前哨――』

書誌情報:NTT出版,iv+241+xx頁,本体価格3,600円,2010年8月19日発行

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メディア技術の分析が秀逸だが難解だ。写真,映画,ラジオ,新聞(電信)の進化を押さえ,「ここにおいて,N・ルーマン謂うところの「報道」―「広告」―「娯楽」という三つのプログラムを,その構造の内実とする「マスメディア・システム」が機能的文化システムとして社会から分出するに至る」(129ページ)。廣松渉ばりの展開は時に煙にまかれてしまう(著者の恩師だそうだ)。
ネットワークに公共圏を夢み,直接的政治のアゴラを空想し,集合的知性を希望する楽観的見方にたいして,共同体の実在性ではなく連合体という別の実在性を指摘する冷静な視点は明確である。電脳空間は電子メディア技術によって媒介されたネットワークの「物象化」論はネットワークのもつ二重化(大衆と群衆,個人と孤人,共同体と連合体)の摘出に論点を当てられる。
ネットワークこそがすべてを支配する権力そのものであるとするロジックに繰り込まれた情報社会の「現状分析」からはコードやプログラム,そしてリソースを利用してネットワークを「喰い破る」か「簒奪する」しかない。情報社会という「人類史の新たな段階」(214ページ)が人間を相対化させ,人間中心主義からの脱却を意味するならば,「万物の共棲」の具体的内容が問われることになる。