1607司馬遼太郎著『木曜島の夜会』

書誌情報:文春文庫(し-1-49),222頁,本体価格340円,1980年9月25日発行

釦の材料としてかつて白蝶貝や黒蝶貝が大量に採られた。たまに真珠を含んでいることがあった。オーストラリアの北東部の突端の先にある木曜島がその舞台であり,ダイバーとしてその仕事に従事した多くは紀州出身者と愛媛の南予出身者であった。司馬作品に木曜島を主題にした小説があるとのことで探して読んだのがこの本だ。採貝漁業にたずさわった老人からの聞き書きによる明治期日本人のオーストラリア産業史の一面を描き出していた。
ほかに幕末期から明治維新初期にかけて,吉田松陰近辺にいた富永弥兵衛(有隣)を扱った「有隣は悪形にて」,大楽源太郎を追跡した「大楽源太郎の生死」,板垣退助愛国公党結成にひとつのきっかけをつくった小室信夫を発掘した「小室某覚書」が収録されている。
小室は旧幕時代に利喜蔵と名乗っていた商人で,木像梟首事件に関係していた。伊予松山の三輪田綱一郎もそのひとりだった。